学会奨励賞受賞記念講演

9月24日(日)
 11:00 ~ 12:00

 学会奨励賞受賞記念講演 

喪失と邂逅―キルケゴールと中原中也の場合

講師

竹井 夏生
産業技術短期大学カウンセリングルーム、非常勤講師ほか

 現実現生の世界における決定的な喪失を通して、人はそれを超えた世界を垣間見ることができる。そこで人は、目で見、手で触れることのできる世界から離脱するとともに、そこで喪ったものとの仄かな邂逅の道のりを見出そうとし、また描き出そうとする。それこそが人間存在における初めて真正な実存的模索と言えるし、私を超えた何者かに私を連ならせながら私を再定義する営みとも言えるだろう。そのときあらゆる喪失は、反転して邂逅の途を拓く鍵となりうる。そしてそれは喪失やそれがもたらす苦悩に関わる心理臨床の営みに底流するものであり、哲学やキリスト教神学にも目配りしながら私が模索してきた道のりでもある。その模索を模索のままにここでお示しし教えを乞う場としたい。それが奨励賞という言葉の持つ現在進行的かつ未来志向的ニュアンスに適うように思われるし、その現在地をお見せするのがここでの務めのようにも思う。
 さてその現在地はキルケゴールと中原中也である。彼らは共に現実世界から見れば決定的な敗者である。彼らの人生は他者との決定的な邂逅喪失の末に座礁したようにも見える。けれども彼らの真面目は、そこから人間存在の苦悩を問い、実存を問い、現実現生を超えた邂逅への道のりを掘り当て描き出そうとした、その心の仕事にある。そしてそこには心理臨床や人間性(人間学的)心理学への示唆と交点があるように思うのだ。

講師紹介


竹井夏生

産業技術短期大学カウンセリングルーム、非常勤講師ほか。
立教大学文学部中退、関西学院大学文学部卒業、神戸大学大学院人間発達環境学研究科博士前期課程および後期課程修了、博士(学術)。
臨床心理士、公認心理師。

「ユダの裏切り」と心理臨床関係―「信頼」概念による心理臨床と宗教の「地平融合」(人間性心理学研究第39巻第1号)

パンデミック状況下における「対面すること」の危機(人間性心理学研究第39巻第2号)